みなさん自身の結果は、グループの結果の傾向と似ていますか?もしくは似ていませんか?どちらでも気にする必要はありません。心理学の実験結果には個人差のばらつきが含まれます。数十人から数百人のグループ全体の結果のばらつきは,心理学の実験・調査結果を解釈する上ではとても重要です。このばらつきも含めた結果を解釈することで,「こころ」のプロセスを検討します。
心理学では,ヒト一般の特性を知るために実験や調査を行ってきました。しかし,標本から母集団を推定するにあたって様々な難しい課題があります。例えば,これまではまったく同一の実験を繰り返した場合,異なる標本であっても同じ結果や同じ現象が示されることが仮定されてきました。しかし,そのようにならなかった(追試に失敗した)と報告がされるようになり(Open Science Collaboration, 2015; 池田・平石, 2016),研究の再現性について心理学を含む多くの学問領域で大きな問題になっています。また,W.E.I.R.D.問題といい,心理学の実験や調査が主に「western(西洋の)」,「educated(教育を受けた)」,「industrialized(工業化した)」,「rich(豊かな)」,「democtatic(民主的な)」国で行われてきたため,標本に偏りがあるという指摘もあります。いずれにしても,ヒト一般の特性を知るためには様々な課題があり,課題への取り組みが続けられています。
最近では,web実験・調査が盛んに行われるようになり,多くの参加者に比較的容易に協力してもらえるようになりました。しかし,web実験・調査では実施環境を揃えることが難しいという問題点もあります。実験室で行われる実験・調査では,ディスプレイまでの距離や画面の明るさ,色など多くの環境に関することを揃えて実施します。そのため,結果のばらつきについては個人差として考えればよかったのですが,web実験・調査の場合は実施する環境の違いも考慮に入れる必要があります。
執筆者: 大杉尚之・小林正法